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長崎地方裁判所 昭和28年(ワ)80号 判決

原告 石橋正敏 外二名

被告 山崎憲明

一、主  文

原告等の本訴中、不動産競売手続開始決定の取消及び競売申立の却下を求める部分を却下し、その余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告等の負担とする。

本件について、当裁判所が、昭和二十八年三月五日した強制執行停止決定を取り消す。

前項に限り、仮に執行することができる。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、原告等は、昭和二十七年六月二十四日長崎地方法務局受付第七、六一八号を以て別紙目録<省略>記載の不動産につきされた抵当権設定登記の原因たる被告に対する金五十万円の債務を有しないことを確認する。被告は、原告に対し、右の抵当権設定登記の抹消登記手続をしなければならない。原告を債務者兼所有者として、右の抵当権実行のため、昭和二十八年一月二十三日右の物件に対してされた長崎地方裁判所昭和二十八年(レ)第二号不動産競売手続開始決定を取り消す、被告の右の競売申立を却下する、訴訟費用は、被告の負担とするとの判決を求めると申し立て、その請求原因として、被告は、昭和二十七年六月二十四日長崎地方法務局受付第七、六一八号を以て、原告の所有にかゝる別紙目録記載の不動産につき設定登記された抵当権に基き、原告を債務者兼所有者として、昭和二十八年一月十七日当裁判所に対し、右の不動産の競売の申立をし、同月二十三日、当裁判所昭和二十八年(ケ)第二号不動産競売手続開始決定を得た。けれども、右の抵当権設定登記手続及びこれを以て担保される原告等の被告に対する金五十万円の債務の負担行為は、いずれも原告等自身がこれをしたものではなくして、原告等の親権者である石橋晴義が、原告等を代理してした行為であり、しかもこれ等の行為は、いずれも同親権者が、自己の利益のためにしたものであつて、原告等の損失に帰することが明かであるから、斯様な場合には、当然同損失を親権者は、その子である原告等のために特別代理人を選任すべきことを家庭裁判所に請求し、よつて選任された特別代理人をして、これをさせなければならなかつたにもかゝわらず、この手続を執らなかつたのである。従つて、斯様な行為は、民法第八百二十六条の規定に違背し、法律上当然無効のものといわなければならない。そこで、被告に対し、本件債務の不存在確認、抵当権設定登記の抹消登記手続、不動産競売手続開始決定の取消及び被告の右の競売申立の却下を求めるため、本訴に及んだ旨陳述し、なお本件不動産は、原告等の親権者晴義の妻の所有名義であつたのを、その妻の死亡による遺産相続の結果、原告等の所有に帰したものであると附演した。<立証省略>

被告訴訟代理人は、原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、被告が、原告等主張の本件抵当権に基き、主張の日時主張のように係争物件の競売の申立をし、当裁判所昭和二十八年(ケ)第二号不動産競売手続開始決定を得たこと及び原告等の親権者である石橋晴義が、原告等を代理して被告に対し、金五十万円の債務を負担したことにし、これを担保するため、昭和二十七年六月二十四日長崎地方法務局受付第七、六一八号を以て、原告等の所有名義になつている係争不動産に対し抵当権設定登記手続に及んだことはいずれも認めるが、その余の原告等主張事実は、全部これを否認する。すなわち、原告等は、公簿面上その母の死亡による遺産相続の結果、係争不動産の所有権を取得したようになつているけれども、実際には、これ等の不動産は、原告等の所有物件ではなくして、原告等の親権者である石橋晴義が、浜荘という屋号で料理屋を経営するために、買い受けた同人の所有物件であり、それを唯形式上その妻すなわち原告等の母の名義に所有権取得登記手続をして置いたのにすぎないのだから、原告等が、遺産相続によりその所有権を取得すべきいわれのないこと勿論である。仮にそうでなくして、係争不動産が、真実晴義の妻の所有物件であり、これを原告等が相続承継したとしても、晴義は、係争建物で料理屋を経営し、原告等の養育費は、挙げて、この営業上の収益からまかなわれており、本件債務負担及び抵当権設定の諸行為は、いずれも、右の料理屋経営の資金を得るためにされたものであるから、これ等の行為は、結局原告等の利益となる行為であると解すべきである。従つて、これ等の行為をするに当り、たとえ形式上特別代理人の選任がなかつたとしても、これ等の行為を無効と解すべきいわれのないこと勿論である。けだし、民法第八百二十六条は、親子の利害得失が当該の具体的の場合に、現実に相反する場合に、子の利益を保護しようとする法意であるから、利益が相反するかどうかは、決して行為の外形だけから判断してはならないからである。斯様な次第であるから、原告等の本訴請求は、失当たるを免がれない旨陳述した。<立証省略>

三、理  由

先ず、職権で、原告の本訴中、不動産競売手続開始決定の取消及び競売申立の却下を求める部分の適否について検討する。原告等は、本件において、基本たる債権及び抵当権の不存在を理由として、競売法による任意競売手続の排除等を訴求しており、しかもこの訴は、請求異議の訴として提起されていることがうかゞわれる。ところで、元来任意競売手続に対する不服申立方法については、競売法に何等の規定も存しないので、その性質に反しない限り、強制執行に関する民事訴訟法の規定を準用し、同法所定の不服申立方法によることになる筋合であるが、同法所定の不服申立方法としては、第五百四十四条のいわゆる執行方法に関する異議及び第五百四十五条のいわゆる請求異議が存在しており、先ず執行方法に関する異議は、任意競売に対する不服申立方法として、これを認めても何等任意競売の性質に反するところがないのであつて、形式上の瑕疵は勿論実体上の瑕疵を理由としても、この異議を申し立てることができることは、従来あまねく認められているのであるが、しかもなおこの異議は、専ら申立の方法によるべきであつて、本件のように訴提起の方法によることができないことは、当該法条自体に照して一点の疑をも容れないのである。

次に、請求異議は、任意競売に対する不服申立方法として許されるかどうかであるが、この異議は、債務名義の執行力を排除することを目的とする訴であるから、常に債務名義の存在を前提要件とするのに反し任意競売には何等の債務名義も存在しないのだから、斯様な訴を任意競売について認めることは、その性質に反するものといわなければならないばかりでなく、たとえ斯様な訴を認めなくても、執行方法に関する異議の申立により、実体上の瑕疵を攻撃し、且つ競売手続の進行を一時停止して貰うことができる外、実体上の権利の不存在に関する通常の訴を提起し、よつて得た確定判決を競売機関に提出することにより、或は事宜によつて急を要し確定判決を待つことができないときは、仮処分の申立をすることにより、一般的に任意競売の実行を阻止することができ、実際上も殆ど何等の不都合もないのであるから、任意競売については、請求異議の訴の方法によることはできないものと解するのがまことに相当である。そうだとすると、本訴中冒頭説示の部分は、不適法として却下を免れないものといわなければならない。

そこで、次に、原告のその余の請求の当否について考察する。この点について、原告等の親権者である訴外石橋晴義が、原告等を代理して被告に対し金五十万円の債務を負担したことにし、これを担保するため、昭和二十七年六月二十四日長崎地方法務局受付第七、六一八号を以て、原告等の所有名義になつている係争不動産に対し抵当権設定登記手続に及んだことは、当事者間に争のないところであるから、この外形だけを見ると、これ等の行為は、いかにも民法第八百二十六条第一項にいわゆる親権を行う父又は母とその子と利益が相反する行為とある場合に当るかのように疑われないではないけれども、元来利益が相反するかどうかは、親権者が子を代理してする行為の外形にとらわれることなく、個々の具体的の場合において、その行為の実質に立ち入つて、これを判断することを要するものと解するのを相当とするところ、これを本件について見るのに、成立に争のない甲第二乃至第四号証、同乙第一号証の一、二、証人山頭正利、富山市三郎の各証言、被告本人山崎憲明の供述を彼是綜合すると、公簿面上、原告等は、その母の死亡による遺産相続の結果、係争不動産の所有権を取得したようになつているけれども、実際には、これ等の不動産は、原告等の所有物件ではなくして、原告等の親権者である石橋晴義が、十数年前浜荘という屋号で旅館(その後営業を料理屋に変更)を経営するために、自己の所持金を投じて買い受けたもので、同人の所有物件であり、それを種々の便宜を考慮して、唯形式上その妻すなわち原告等の母の名義に所有権取得登記手続をして置いたのにすぎないのであり、爾来晴義は、係争家屋で旅館乃至料理屋を経営して今日に至り、原告等の養育費は、挙げてこの営業上の利益からまかなわれていること、晴義は、右の料理屋営業の資金調達の必要を生じた結果、昭和二十七年十月一日被告から金五十万円を弁済期同年十二月二十日の定めで借り受けたのであるが、あいにく係争不動産が、登記簿面上原告等の所有名義になつているところから、とりあえず原告等を代表して、右の借用金債務を原告等において、負担することにした上、これを担保するため、本件抵当権設定登記手続に及んだこと、及び斯様な次第であるから、被告としては、晴義に対してこそ債務の履行請求意思を有しており、原告等に対しては、全然これを有しないことを是認するのに充分であつて、これ等諸般の事実に照らすときは、本件債務負担及び抵当権設定の諸行為はむしろいずれも、原告のために有利な行為であり、決していわゆる父子利益の相反する行為に当らないものと判定すべきであるから、たとえ特別代理人によつてされなくても、適法有効であるといわなければならない。

果してそうだとすると、本件債務不存在の確認及び抵当権設定登記手続を求める原告の本訴請求は、失当として排斥を免がれないので、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文、強制執行停止決定の取消及び仮執行の宣言について、同法第五百四十八条を夫々適用し、主文のとおり判決した次第である。

(裁判官 林善助)

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